KIRIN's Story #02 「食」で世界の人々を幸せに ヘルスサイエンス事業が描く未来

2020年8月上旬、プラズマ乳酸菌を使った商品ブランド『iMUSE(イミューズ)』が日本で初めて免疫機能で機能性表示食品として届出が受理されました。

飲料メーカーとして長年ビール造りを続けてきたキリンが、独自の発酵技術や生物学的な知見を活かして完成させた『iMUSE』。これまでの35年間におよぶ免疫研究がようやく結実し大きな一歩を踏み出しました。

『iMUSE』誕生までの道のりや、そしてその開発を担ったキリンの新領域「ヘルスサイエンス事業」とは。事業の変遷やこれから目指す健康領域について、挑戦を続けるヘルスサイエンス事業部の佐野環と藤原大介に話を聞きました。

Profile

佐野環キリンホールディングス(株)
ヘルスサイエンス事業部長

1994年キリンビール入社。「氷結」の開発に従事しトップブランドに育成。2009年にマサチューセッツ工科大学でMBA取得。オーストラリアの子会社やキリンのブランド戦略部を経て16年、事業創造部(現部の前身)の部長に就任。
日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2021」受賞。

藤原大介キリンホールディングス(株)
ヘルスサイエンス事業部主幹
農学博士

東京大学大学院農学生命科学研究科を卒業後、1995年キリンビール・基盤技術研究所に入社。その後、基礎研究に従事し、理化学研究所及びカリフォルニア大学ロサンゼルス校留学を経て、現部へ。専門は免疫学・微生物学。

日本で初めて免疫機能で機能性表示食品として届出が受理された『iMUSE』

まず『iMUSE』とは何か教えていただけますか?

佐野:『iMUSE』は35年の免疫研究から生まれたブランドです。キリンが発見した「プラズマ乳酸菌」「KW乳酸菌」を、日常に取り入れやすい形として飲料やサプリメントなどの商品に展開しています。

プラズマ乳酸菌とは、どのような働きをするものなのでしょうか?

藤原:プラズマ乳酸菌は、健康な人の免疫機能の維持をサポートするものです。そのメカニズムは、プラズマ乳酸菌が免疫細胞の司令塔である「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)」という細胞に働きかけ、その司令塔の指示によって、免疫機能全体が活性化されるというものです。

プラズマ乳酸菌が健康な人の免疫機能の維持をサポートするメカニズム 自社保有の他乳酸菌の場合、一部の細胞のみ活性化されるが、プラズマ乳酸菌の場合、免疫の「司令塔」pDCに働きかけることで、NK細胞・キラーT細胞・B細胞・ヘルパーT細胞といった免疫細胞全体の活性化に繋がり、健康な免疫維持をサポート

「iMUSE」ブランドはいつ誕生したのですか?

藤原:実は、「プラズマ乳酸菌」を使った商品は、同グループの小岩井乳業からすでにヨーグルトとして発売されていたんです。プラズマ乳酸菌は扱いが難しく商品化には向かなかったのですが、共同研究を行っていた小岩井乳業がとても美味しいヨーグルトに仕上げてくれました。

佐野:ただ、発売当初はまだプラズマ乳酸菌の知名度が低く、肝心の機能は直接伝えられませんでした。その理由のひとつが、薬機法の問題です。法律の規制により、食品では機能をそのまま表現することは制限されています。

それで、我々が最初に手をつけたのはデザインでした。言葉で伝えるのが難しいのなら、見た目でお客様に感じていただく方法を考えようと。そういう考えのもとに、まずは『iMUSE』というブランドをグループ横断で立ち上げたんです。飲料やヨーグルト、サプリメントに展開することでお客様に商品が見える状態をつくろうとしたのです。

プラズマ乳酸菌を使った商品に特化したブランドを立ち上げて、広く認知してもらおうと。

佐野:そうですね。その次に、プラズマ乳酸菌のはたらきとは何か?を伝えるCMを作りました。お客様にわかりやすくイメージしていただくためにビリヤードをモチーフに、司令塔の細胞を模したひとつのボールにプラズマ乳酸菌がぶつかって、全体が活性化するようなイメージで、プラズマ乳酸菌が免疫の司令塔にはたらきかけることを表現したんです。

そういうコミュニケーションの開発によって、プラズマ乳酸菌の認知はグッと上がりました。そして今年、免疫の機能性表示にチャレンジし、これまでの研究で積み上げてきた成果をもとに行政に届け出を行い、ついに機能性表示食品の届出が受理されたんです。

存在するかもわからないプラズマ乳酸菌の探索

プラズマ乳酸菌は、どういう研究によって発見されたのですか?

藤原:もともと私は2000年から「食と免疫の関係」をテーマに研究をしていました。そのなかで最初に見つけたのが「KW乳酸菌」というもので、今もサプリメントやヨーグルトとして販売されています。KW乳酸菌を世に出した後、アメリカに留学して、「pDC」の基礎研究をしていたんです。

先ほどのお話にあった、免疫細胞の司令塔になる細胞ですね。

藤原:はい。その研究を進めていくなかで、pDCが体内で重要な働きをしていることがだんだんわかってきたんです。それで帰国後はpDCを活性化させる研究を始めました。そこで見つけたのが「プラズマ乳酸菌」です。

人間の体には様々な免疫細胞があって、その一部を活性化させる方法は見つかっていました。ただ、免疫の司令塔となる「pDC」自体を直接活性化させる方法はないと考えられていたんです。

つまり、その存在しないと思われていた乳酸菌を藤原さんが発見されたのですか?

藤原:はい。ただ、私は「どんな研究をしても、それがお客様に届かなかったら意味がない」と思っているので、プラズマ乳酸菌を使って商品化することを進めました。手軽に摂れる食品で免疫機能の維持を助けるという方法は現実的で、研究としての独自性もあるので、社会的に意義があることだと思ったんです。

存在するかどうかもわからないものを探索するって、手掛かりがないまま道を進んでくってことですよね。

藤原:そうですね。だいたい5つくらいの仮説を立ててそれらを同時進行で研究していくのですが、プラズマ乳酸菌も初めはその仮説のひとつに過ぎませんでした。

その仮説から、どのようにプラズマ乳酸菌を見つけていったのですか?

藤原:蓄積してきた過去のデータといくつかの仮説を立てたうえで研究を進めていきますが、時には理論的に考え過ぎないよう直感も大事にしました。「あの辺にいそうだな」っていうあたりをつけて、感覚を働かせて手がかりを見つけていくようなイメージです。
感覚としては、草むらのなかでバッタを捕まえるのに近いですね。広い草むらでバッタを探すときって、理論的に考えないですよね。その直感に従って、狙った場所をリサーチする。そうすると、よーく見ないとわからないけど、確かに何かいるんですよ。

なるほど。そんな感覚なんですね。

藤原:研究者って左脳で研究しはじめると、そういう感覚が鈍ってしまいがちなんですよね。誰かがこんな論文を書いていたからそのバージョン1.1を作るという方向性ではなく、私はまだ誰も知らない新たな発見をしていきたいんです。

未知の新事業へ。キリンの強みを活かした健康領域

そもそもキリンといえばビールや飲料のメーカーといったイメージが強く、ヘルスサイエンス事業の展開は一般的にあまり知られていないと思います。キリンが、ヘルスサイエンス事業をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?

佐野:時代としてはやや遡るんですが、キリンは1980年代に事業の多角化を目指していました。ビールだけでは市場的にも限界が見えているので、将来を見据えて別の事業を立ち上げようということで。そういうなかで、我々が培ってきた技術を応用して、新しい価値を生みだせる取り組みを考えていたんです。

そのうちのひとつが、「基盤技術研究所」という多角化を目的とした研究所の創設で、そこには次の時代の価値を作っていくという方向にシフトする意図がありました。

藤原:ビール造りのコア技術は、酵母を使って麦汁を発酵させることです。その技術が医薬品に用いられる細胞を増やすことにも応用できるという発想から医薬事業に結びつきました。

酵母を増やすことと細胞を増やすことは、生物を増やすという点では同じです。それを均質なクオリティで作る技術がキリンにはあったので、対象を酵母から細胞に変えれば、新しい事業への展開が可能だと考えました。

なるほど。ヘルスサイエンスというのはビール造りで培ってきた技術が活かせる領域だったんですね。

佐野:そうした経緯で2016年に「医と食の中間領域」という分野でヘルスサイエンス事業部の前身となる、事業創造部を立ち上げることになりました。
ただ、事業創造部には、明確なお題が与えられたわけではなかったんですよね。決まっていたのは「健康領域で新規事業を作る」という大枠だけ。

まずは、今までと違う発想で新規事業を立ち上げるべく、若手を中心に、様々なバックグラウンドのメンバーが各部署から集められました。私のようなマーケティング畑で育ってきた人間と、研究所一筋で20年以上やってきた藤原が一緒に仕事をすることなんて、それまでは考えられないことだったんですけどね。

藤原:会社からは、それまでキリンがやってきたビールや飲料ではなく、会社として経験のないようなことをやってほしいと言われていたんです。何かをベースにして発展させていくのではなく、まったく新しい事業に取り組みたいと。

佐野:最初は介護の現場に行ってみたり、スポーツジムを作るというようなアイデアもあったんですよね。だけど、既に他社がやっていることであれば、あまり意味がありません。だから、最終的に行き着いたのは「自分たちの強みを活かす事業にしたい」という結論でした。それがお客様にとって本当に価値のある事業につながると思ったんです。

佐野:それから、改めて私たちが持っている技術を洗い出してみました。

キリンの強みを活かせるものを?

佐野:はい。「私たちが持っている健康に資する技術は何か」ということを考えたときに、薬ではなく食品ができることにフォーカスして、価値を作っていくことに意味があると思いました。そこで軸に据えたのが、藤原が発見したプラズマ乳酸菌だったんです。

そこで藤原さんの研究と新規事業のテーマが結びついたんですね。

佐野:そうですね。免疫の研究は昨日今日はじめたものではなく、我々が長年積み重ねてきたものなので。そういう、しっかりしたサイエンスを大事にしたいと思いました。そこには、キリンがずっと大事にしてきた誠実さや実直さがあって、真摯にモノづくりと向き合ってきたという企業のDNAに紐づいているんです。

健康をサポートすることで、世界中の人々を幸せにする

お話を伺っていると、改めて『iMUSE』というブランドは、新規の事業でありながら、これまでに培ってきたキリンの強みを活かして生まれたものなんだなと感じます。

藤原:そうですね。研究だけしていてもお客様に価値は届かないけど、それをキリンという会社がやってきた飲料や食品という分野と掛け合わせることで、商品というアウトプットにまで繋げることができました。

佐野:新規事業の立ち上げも、根幹にあるのは「たくさんのお客様を幸せにしたい」という想いです。その想いを叶える上で、独自の技術を活かして新しい価値につなげられるというのは、我々の大きな強みだと思います。

私自身、入社当初から食品メーカーの営業として、食品で毎日の食卓を彩り、そこで人の幸せに貢献するという夢を描いていたんです。『iMUSE』はさらにその夢の実現へと近づけてくれた存在ですね。

『iMUSE』ブランドには飲料がありますが、価値としては今までの飲料商品とまったく違うものをお届けしていると自負しています。

形としては飲料でも、売りにしているのは健康な人の免疫機能の維持をサポートすることですもんね。

佐野:『iMUSE』のコアは、モノではなくサイエンスなんです。

モノではなくサイエンスですか?

佐野:飲料として新しいのではなく、プラズマ乳酸菌の機能が新しいんです。それはサイエンスですよね。ですから、私たちは新しい価値の創造をしていると思っていますし、それはお客様にとっての価値にもなると思っています。私たちヘルスサイエンス事業チームのミッションは、健康をサポートすることで、世界の人々を幸せにすることなんです。

世界で初めてpDCに働きかけることが証明されたプラズマ乳酸菌を使い、日本で初めての免疫機能の機能性表示食品『iMUSE』が、2020年11月に発売となりました。この商品を主軸にしたヘルスサイエンス事業の展望を、最後に聞かせてください。

藤原:我々の事業のミッションは、キリンの技術で新たな価値を生み出し、それをお客様に届けることです。そして、そのときにちゃんと社会的な価値を持って届けたいと思っています。

ですから、プラズマ乳酸菌を使った『iMUSE』で終わりではなく、iMUSE2、3、4となるような商品もつくっていきたいですね。それぞれ目的が違う価値を生み出せれば、より多くの方を幸せにできると思っています。

佐野:免疫機能のサポートは、国や人種を問わず全世界の人々が抱えている問題なので、グローバルなブランドにしていきたいと思っています。それに対して、キリンが持っているサイエンスというコアな価値を届け、より多くのお客様を幸せにできたらと思っています。

健康な人の免疫機能の維持をサポートするプラズマ乳酸菌

日本で初めて免疫機能を訴求する機能性表示食品として届出受理された『iMUSE』。毎日の生活に手軽に取り入れられる飲料やサプリメントなど、全5商品のラインアップ*1で展開中。

*1:「professional プラズマ乳酸菌サプリメント」はクリニック・調剤薬局・通販サイトなどで販売

文:阿部光平
写真:土田凌

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KIRIN's Story #01はこちら「日本の暮らしとビール これまでとこれから」

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