クラフトビール発祥の地である米国では、歴史的な背景から、クラフトブルワリーは小規模・独立性・伝統的と定義されているが※、小規模のスケールなど事情が異なることもあり、日本ではクラフトビールの明確な定義はないと言われている。
キリンではお客様がそのビールを飲むときにどう感じるかを第一に考え、クラフトビールを造り手の感性と創造性が楽しめるビールと定義している。
※米国のBrewers Associationの定義では、年間生産量が約70万㎘以下、大手ビールメーカーの持株比率が25%未満、伝統に革新を加えた製法と原料、の3要件
クラフトビール
発展の歴史
大手2社がほぼ独占していた米国ビール市場では、1970年代に始まったホームブリューイングを起源として、80年代には伝統的な醸造方法と、新しく育種されたフルーティな香りのホップやその香りを活かすドライ・ホッピングなどのホップ使用法を特徴とするビール造りが西海岸から東海岸に波及した。ニューヨークではBrooklyn Brewery(ブルックリン・ブルワリー社)※2が創業し、90年代後半にはGarret Oliver(ギャレット・オリバー)等の醸造職人が注目されるようになり、大都会での事業成功はクラフトビール革命と呼ばれた。
クラフトビール 発展の歴史
大手2社がほぼ独占していた米国ビール市場では、1970年代に始まったホームブリューイングを起源として、80年代には伝統的な醸造方法と、新しく育種されたフルーティな香りのホップやその香りを活かすドライ・ホッピングなどのホップ使用法を特徴とするビール造りが西海岸から東海岸に波及した。ニューヨークではBrooklyn Brewery(ブルックリン・ブルワリー社)※1が創業し、90年代後半にはGarret Oliver(ギャレット・オリバー)等の醸造職人が注目されるようになり、大都会での事業成功はクラフトビール革命と呼ばれた。
※1 2016年にキリングループと資本・業務提携
2000年代に入ると、ミレニアル世代に支持され、そのブームに一気に火がつく。2019年現在、米国でのクラフトビールのシェアは販売数量ベースで12%(金額ベースで20%)を超え、クラフトビールメーカーは5000社を超えている。米国から始まったクラフトビールの流れは、世界各地にその広がりをみせた。
オーストラリアでは、Coors(クアーズ社)の元ブルワー、Chuck Hahn(チャック・ハーン)が1988年にマイクロブルワリーのHahn Breweryを設立。米国のマイクロブルワリーのムーブメントがオーストラリアにも伝播。「Hahn Premium」をヒットさせるも、流通チャネルの限界から1993年にLion Nathan(ライオンネイサン社)※2の傘下となった。Chuck HahnはLion社の企業内ベンチャーとして1999年にMalt Shovel Brewery社というクラフトブルワリーを起業。「James Squire(ジェームス・スクワイヤー)」ブランドを発売し、今日はクラフトカテゴリーのトップブランドに成長している。
※2 キリングループは、Lion Nathan(現ライオン社)に、1998年に資本参加し、2009年に完全子会社化
日本では、1994年の規制緩和以降、各地に地ビールと呼ばれる醸造所が多く設立され、欧州の伝統的なタイプのビールづくりにトライするも、技術や品質、価格の課題で低迷。その後米国で受容されるブルワリーが出てくるなど、淘汰の波を乗り越えた地ビールメーカーは米国的なクラフトブルワリーにリポジショニングし、2010年頃からクラフトビールへのムーブメントをリードした。日本の市場規模はまだ小さいが、文化として定着しつつあり、今後は大きく拡大する可能性を秘めている。
クラフトビール市場
日本国内のビール類市場は1994年の743万㎘をピークにダウントレンドにある。ビール各社は1994年から発泡酒を、2004年以降には新ジャンルを相次いで投入してきたが、低価格化のみでは縮小傾向に歯止めを掛けられなかった。一方、国内アルコール消費量全体は、2013年で下げ止まり、これまでのアルコール消費量の中心的存在であったビール類の減少分を、他のアルコールカテゴリーが補っている状況である。
クラフトビール市場
日本国内のビール類市場は1994年の743万㎘をピークにダウントレンドにある。ビール各社は1994年から発泡酒を、2004年以降には新ジャンルを相次いで投入してきたが、低価格化のみでは縮小傾向に歯止めを掛けられなかった。
一方、国内アルコール消費量全体は、2013年で下げ止まり、これまでのアルコール消費量の中心的存在であったビール類の減少分を、他のアルコールカテゴリーが補っている状況である。ただビールカテゴリーの中でも、大量生産標準化の副作用として見過ごされてきた、お客様ごとに異なる嗜好を職人の技量で充たすクラフトビールは消費量が拡大しており、ビール類市場の再活性化への切り札とも言われている。
クラフトビールの種類
ビールは、本来多種多様。クラフトビールがそれをわかりやすく表現している。ビアスタイルは、発酵方法の違いで主に2つに区分される。ラガー酵母をつかい下面発酵(10℃前後で1週間)させるラガー系。エール酵母をつかい上面発酵(20℃前後で3-5日間)させるエール系。これら2つ以外の方法でつくられる「その他」も存在する。さらに、地域や原料で細分化していくと、100種類以上のビアスタイルになる。
クラフトビールの種類
ビールは、本来多種多様。クラフトビールがそれをわかりやすく表現している。ビアスタイルは、発酵方法の違いで主に2つに区分される。ラガー酵母をつかい下面発酵(10℃前後で1週間)させるラガー系。エール酵母をつかい上面発酵(20℃前後で3-5日間)させるエール系。これら2つ以外の方法でつくられる「その他」も存在する。さらに、地域や原料で細分化していくと、100種類以上のビアスタイルになる。
大手ビールメーカーの販売する商品のほとんどがピルスナータイプだったこともあり、日本人はこれまで「ビールといえばピルスナー」という認識であったが、最近では日本国内でのクラフトビール市場の広がりによって、さまざまなビアスタイルの商品を楽しめるようになった。自分好みのビールや食事に合わせたペアリング等、新たな楽しみが広がる。
キリンビールの
クラフツマンシップ
キリンビールは、ものづくりをする上でArtの感覚を持つこと、そして五感を重んじることを大事にしている。また、1980年横浜工場内に、新商品のみならず、醸造技術を磨き、ブルワーを育成する場として、5㎘のインハウス・クラフトブルワリーともいえるパイロットプラントを開設。1984年に200Lのパイロットプラントを追加しテクニカルセンターに移管、現在は200Lと2㎘の2系列を持つ。
キリンビールのクラフツマンシップ
キリンビールは、ものづくりをする上でArtの感覚を持つこと、そして五感を重んじることを大事にしている。
また、1980年横浜工場内に、新商品のみならず、醸造技術を磨き、ブルワーを育成する場として、5㎘のインハウス・クラフトブルワリーともいえるパイロットプラントを開設。1984年に200Lのパイロットプラントを追加しテクニカルセンターに移管、現在は200Lと2㎘の2系列を持つ。年間で1,000種類以上のビールを試醸しており、大量生産品でもクラフツマンシップを発揮している土壌がある。パイロットプラントで明示知化した技術は、企業内大学であるものづくり人材開発センターで体系的に伝承し、育成されたブルワーは各工場で醸造を行う。
パブ・ブルワリーである『SPRING VALLEY BREWERY』は、生きているビール造りのミュージアムとして、お客様にものづくりとクラフツマンシップを見てもらおうというコンセプトを持っている。
キリングループの
クラフトビール戦略
大量生産品のカウンターカルチャーとしてクラフトビールが生まれた米国では、大手ビールメーカーがM&Aでクラフトビールブランドのポートフォリオを充実させているのに対して、キリングループは、2014年に日本でSPRING VALLEY BREWERY(スプリングバレーブルワリー)を、1998年に豪州でJames Squire(ジェームス・スクワイヤー)を創業するなど、自社でクラフトビール事業を育成している。
キリングループのクラフトビール戦略
大量生産品のカウンターカルチャーとしてクラフトビールが生まれた米国では、大手ビールメーカーがM&Aでクラフトビールブランドのポートフォリオを充実させているのに対して、キリングループは、2014年に日本でSPRING VALLEY BREWERY(スプリングバレーブルワリー)を、1998年に豪州でJames Squire(ジェームス・スクワイヤー)を創業するなど、自社でクラフトビール事業を育成している。
また、投資政策をみても、完全子会社化や50%以上の出資で経営権を握るグローバル・プレーヤーと異なり、キリングループはヤッホーブルーイング(2014年に日本で33.4%を取得し資本業務提携)、Brooklyn Brewery(2016年に日本で24.5%を取得し資本業務提携)、Little Creatures(2012年に豪州で完全子会社化するまでは、2000年の創業時から30%台の少額出資)と、クラフトブルワリーの裁量を尊重しながら連携することで、クラフトビール市場の拡大と浸透を図っている。
若者のビール離れという課題があるなかで、将来の顧客の育成はチャレンジでもある。本来、ビールは多種多様であり、日本のビール文化には根付いていなかった飲み方や楽しみ方がまだたくさんある。クラフトビールを通じてそれを表現し浸透させ、ビールカテゴリー自体を活性化させることで、市場は拡大する可能性があると考えている。また、それが、キリンビールがクラフトビールに積極的に取り組む理由であり、流通、原料供給者や生産者、地方のクラフトブルワリー、そしてお客様と一緒に、ビールを通じて豊かな時間とワクワクするビールの未来を創りだし、次世代にビールの文化を継承していきたいと考えている。
キリンビールは、2017年に「Tap Marché(タップ・マルシェ)」の展開を開始。1台で4種類のビール提供が可能な小型ディスペンサーを設置し、2018年には全国に展開。クラフトビールと身近に触れ合える接点を拡大した。一見競合ともいえる独立クラフトブルワリーの商品も販売するのは世界でも異例と言われている。Brooklyn Brewery創業者のSteve Hindyは、「独立クラフトブルワリーと敵対している米国の大手ビールメーカーとは大違いで、キリンはクラフトブルワリーの仲間」と述べた。独立クラフトブルワーにも加入してもらうことで、自社のクラフトブランドだけではなく、日本におけるクラフトビールカテゴリー全体の発展やクラフトビール産業の育成、地域創生に寄与している。
日本産ホップと
クラフツマンシップ
ビールは、麦芽、副原料、ホップ、水、酵母という限られた素材だけでつくられ、素材の違いが個性的なスタイルを生み出す。なかでもホップは、苦み、フレーバー、香りを担うホップは重要な存在で、「ビールの魂」と呼ばれている。キリンビールは、100年前から山梨でホップの試験栽培をはじめ、苦みだけに注目されていたホップに、「香り」という新たな価値を見出し、2002年に「毬花一番搾り〈生〉」として商品化に導いた。
日本産ホップとクラフツマンシップ
ビールは、麦芽、副原料、ホップ、水、酵母という限られた素材だけでつくられ、素材の違いが個性的なスタイルを生み出す。なかでもホップは、苦み、フレーバー、香りを担うホップは重要な存在で、「ビールの魂」と呼ばれている。
キリンビールは、100年前から山梨でホップの試験栽培をはじめ、苦みだけに注目されていたホップに、「香り」という新たな価値を見出し、2002年に「毬花一番搾り〈生〉」として商品化に導いた。それが、発売15年を超えるロングセラーとなる「一番搾り とれたてホップ生ビール」につながる。一番搾り製法や仕込方法のデコクションはクラフトブルワーの伝統的製法、ホップ・アロマ製法はホップの香りを活かすクラフトブルワーのホッピングと共通する製法であり、凍結粉砕ホップ製法はクラフトブルワリーのウェットホップを使用したビールづくりに通じる。
キリンビールは国内で栽培されているホップの約7割を購入する一方、農家の高齢化や後継者・就農者の不足という産地の課題に向き合い、地域社会・産業、加えてクラフト市場全体の活性化に取り組んでいる。主力ホップの「IBUKI(いぶき)」は、フローラルでピュアな香りを特長とし、クラフトビール以外のキリンビール商品にも使用するとともに、50社以上のクラフトブルワリーに外販している。また、みかんやイチジクを思わせる爽やかなで強い香りが特長の「MURAKAMI SEVEN(ムラカミ・セブン)」を国内に展開させるため、現地の農家とともに作付面積を拡大している。
2018年に発売した「本麒麟」で使用しているホップのヘルスブルッカー(ハラタウ)は「キリンラガービール」でも使われているファインアロマホップで、新ジャンルでも「キリンのどごし〈生〉」など軽くて飲み易さが評価されてきた第一世代から、クラフトビールと同じくホップの香りが評価される新世代へと、評価軸の革新を引き起こしている。